感染と消毒 2025 Vol.32 No.1 p.13-21
解説
RSV(Respiratory Syncytial Virus)ワクチンについて
石黒 信久
Respiratory Syncytial Virus(RSV)はニューモウイルス科に属する RNA ウイルスであり,健康な成人が罹患した場合には軽い感冒症状で済むことが多いが,乳幼児,高齢者,免疫抑制患者が感染すると重症化するリスクがあるため,ワクチンの開発が求められてきた.1960 年代にホルマリン不活化 RSV (FI-RSV) ワクチンが開発されたが,効果が低いだけでなく,接種者が RSV 感染した際に強い炎症反応(Enhanced RSV Disease, ERD)を引き起こす問題が発生した.その後,ERD の機序が解明されるとともに,宿主細胞と融合する前の F タンパク質が効果的な中和抗体を誘導することが判明した.安定した融合前 F タンパク質を作成する技術の開発により,ワクチン開発は大きく進展した.現在,日本では融合前 F タンパク質を抗原とするサブユニットワクチンが実用化され,米国では同タンパク質をコードしたmRNA ワクチンが FDA に承認されている.また,F タンパク質を標的とした半減期の長いヒト型モノクローナル抗体も実用化されている.一方で,成人における流行状況の把握や基礎疾患を持たない乳児への予防策など,未解決の課題が依然として残されている.