感染と消毒 2025 Vol.32 No.2 p.9-13
解説
細菌同定における質量分析装置の基本と応用
大塚 喜人
MALDI-TOF MS(マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法)は,感染症の分野で非常に重要な技術となっている.従来の検査法では,細菌・真菌の同定に4時間~ 48 時間を要していたが,MALDI-TOF MS では数分で精度の高い同定が可能となった.これにより肺炎,尿路感染,敗血症などの迅速診断と適切な抗菌薬による早期治療開始が可能となり,不適切な抗菌薬の使用を減らすことで,抗菌薬耐性菌の抑制にも寄与する.MALDI-TOF MS はある程度耐性菌の予測にも利用可能であるが,現時点では実用化には至っていない.しかしながら,従来法では同定困難であった医療関連感染症起炎菌種の確定には大きく寄与することが期待される.