次亜塩素酸水はいわゆる酸性水(電解型/非電解型)の一種です。色々な製法がありますが、いずれも消毒薬(医薬品、医薬部外品)として認められていません。原水の性状や製造条件により様々の次亜塩素酸濃度の製品が存在しています。その多くの製品において次亜塩素酸濃度が非常に薄いものであり、殺菌効果を期待するには無理があります。
大部分の次亜塩素酸水において次亜塩素酸の濃度は25ppm以下であり、哺乳瓶の消毒に用いられる濃度の125ppmと比較しても極端に薄い濃度の溶液です。したがってごく少量の有機物が混入しても速やかに不活性化して、ただの水となってしまいます。環境消毒に使用した次亜塩素酸水の使用後の残留塩素濃度を測定した場合には、0に近い値となっているはずです。
新型コロナウイルス感染の影響で消毒薬が品薄となった状況において、次亜塩素酸を主成分とする次亜塩素酸水が環境消毒薬として注目されていましたが、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)から有効塩素濃度(電解型/非電解型)が35ppm以上であれば新型コロナウイルスの消毒に対して有効であることが確認されました。しかし、この濃度は研究室レベルにおけるin vitroでの成績であり、病院環境に対する実用レベルでのものではありません。すなわち濃度の薄い次亜塩素酸は、0.1%程度の僅かな有機物の混入においてさえ完全に不活性化されてしまう不安定な物質です。一方で、ジクロイソシアヌル酸ナトリウムから製造された次亜塩素酸水では100ppm以上の次亜塩素酸濃度が必要とされています。
手術室などの床に存在する血液を含む有機物の存在を考慮すると、次亜塩素酸水を環境消毒薬として使用するためには500ppm程度の濃度が必要と思われます。そのためには次亜塩素酸水ではなく、濃度が自由に調整できる次亜塩素酸ナトリウム溶液を使用すべきと考えます。
次亜塩素酸系の溶液を消毒薬として使用する場合には、床面などの汚れ(有機物、油脂など)を予め除去しておくこと、適正使用濃度の遵守および対象物に対して十分な量を使用することが大切です。