洗浄・消毒・滅菌 Q&A

回答については、質問をいただいた時の基準に沿って回答しておりますので、現時点とは異なっている場合もございます。

当院の婦人科では滅菌したクスコ鏡を挿入前に加温滅菌水で濡らしてから用いています。診療側から水道水への変更を相談されました。加温など不安材料があり、滅菌水をお願いしたく思っていますが、どうでしょうか?(H.K.)

クスコ鏡の使用にあたっては、器具(金属)による冷感の軽減や、器具のスムーズな挿入を目的として、あらかじめ器具を温めておく、加温した滅菌水などで濡らしてから使用するなどの手順が一般的に行われています。一方で、この方法に関して、現時点では日本産科婦人科学会の関連ガイドライン1)などに明確な記載はなく、各施設の判断に委ねられているのが実情です。

滅菌水の使用は、感染リスクを最小限に抑えるという観点から、安全性の高い選択肢です。一方、水道水は手軽でコスト面の利点があります。水道水による感染リスクをどの程度重視するかにより、処置・検査内容で使い分けをするなどの現状がありますが、その根拠を示す情報は見当たりません。

粘膜に接触する器材は、「セミクリティカル」に分類され、通常は高水準消毒が求められます。一般診療で使用するクスコ鏡は、耐熱性の鋼製器具であることから、高圧蒸気滅菌処理が一般的に行われています。滅菌済みの器具を未滅菌の手袋で扱うことが多いことから、使用時に完全な無菌操作は求められていません。以上の点を踏まえると、日本の水道水の衛生管理水準を考慮し、クスコ鏡の使用時に水道水を用いることも一定の合理性があると考えられます。

やや論点は異なりますが、器具の「すすぎ水」に関する情報として、膣鏡の添付文書2)で、仕上げすすぎには浄化水や精製水(濾過、蒸留、脱イオン化等)の使用を推奨すると記載されているものがあります。一方で、クスコ鏡の処理における“すすぎ”に関して、水道水ではなく滅菌水またはろ過水を使用することは推奨されていない(未解決問題)3)とされていたりもします。器具のすすぎ水の選択についても幅があるのが現状です。

次に、“加温”に関する懸念についてです。現在の滅菌水の加温方法はわかりかねますが、滅菌水を加温している現状と、水道水に変更した場合の加温手順を比較し、一連の作業の円滑性、安全性、効率性を総合的に評価し、選択するのが望ましいと考えます。

クスコ鏡を濡らす目的は潤滑であり、患者の苦痛軽減にもつながります。水の代わりに水溶性潤滑剤を使用する場合もあり、使用する液体(水道水、滅菌水、蒸留水、生理食塩水など)や温め方(乾式、湿式、流水など)も施設ごとに多様です。

以上を踏まえ、現行の滅菌水使用は安全性と患者配慮の観点から妥当と考えられますが、診療効率や運用面も含めて、水道水への変更案について施設内で検討されるのが良いと考えます。

引用文献

  1. 日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会;産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2023
  2. PMDA(医薬品医療機器総合機構)医療機器情報検索、一般的名称「膣鏡」
    https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/kikiSearch
  3. CDC. Guideline for Disinfection and Sterilization in Healthcare Facilities, 2008.
    https://www.cdc.gov/infectioncontrol/pdf/guidelines/disinfection-guidelines-H.pdf

小野 和代(東京科学大学病院 看護部 副看護部長 医療安全管理部GRM)
2025年06月
感染と消毒ホームページ事務局(幸書房内)
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