ご指摘どおり、海外では手指消毒薬の開封後の使用期限はないと思います。日本独自の概念です。
わが国では、開封後のアルコール性擦式手指消毒薬に6ヵ月間などの使用期限を記入する施設が少なくありません。医療監視や機能評価等において開封日の記載による管理が求められる運用が一般的だからです。また、物流在庫の観点から開封後の使用期限を設定している施設もあります。
長期間にわたってアルコール性擦式手指消毒薬を使用しても、微生物が増殖してくることはありません。しかし、セレウス菌 ( Bacillus cereus ) などの細菌芽胞*が蓄積してくることがあります。たとえば、輸液バッグの浸漬消毒の目的で、消毒用エタノールを開放容器で1ヵ月にわたって使用していた不適切例では、1mLあたり20個 ( colony forming units ) の芽胞が検出されました。芽胞がチリやホコリなどとともに容器中へ混入したと推定されます。また、アルコール性擦式手指消毒薬の代替品として用いられていた飲用の高濃度エタノール製品 ( 63~78 vol % ) を調べたところ、9品中7品目 ( 77.8% ) が100mLあたり5~44個の芽胞を含有していました (「医薬品」の消毒用エタノールでは調べた3メーカーいずれも0個 / 100mL ) 。本例では原料や製造時などに芽胞が混入したと推定されます1) 。
このようにアルコールは芽胞汚染を受けることがありますが、メーカー品のアルコール性擦式手指消毒薬に芽胞が混入する可能性は低いです。なぜなら、アルコール性擦式手指消毒薬では1回使用で容器内へ流入する空気は数mL以下と推定される一方、病院内の空気に含まれる芽胞数は1,000mLあたり多くても1個だからです ( 回答者の経験による ) 。すなわち、計算上では500mL製品を1回2mLで計250回使っても、容器内へ1個の芽胞が入るか入らないかの低い確率です。実際、サンプル数は少ないものの、6ヵ月間ほど使用後のアルコール性擦式手指消毒薬の計16サンプルを調べたところ、ノズル排出液1mL中の芽胞数はいずれもゼロでした。しかし、製品によっては、長期間にわたる使用で芽胞汚染を受けてくる可能性はあります。また、米国ではアルコール性擦式手指消毒薬の芽胞汚染を防ぐため、少量のオキシドール ( 過酸化水素 ) を添加した製品が発売されています ( 終濃度として0.1%程度 ) 。したがって、開封後のアルコール性擦式手指消毒薬の使用期限を6ヵ月間などと設定するのは妥当といえます。
0.25mLあたり5個のセレウス菌の芽胞汚染を受けていた。
細菌芽胞は自身が増殖しにくくなったとき、生き残るために産生される“種”みたいなものです。一部の細菌(セレウス菌、破傷風菌、ボツリヌス菌、ディフィシル菌など)が産生します。
引用文献
- 尾家重治, 敷地恭子:酒造メーカーが発売している高濃度エタノール製品の微生物学的検討. 環境感染. 36:72-74, 2021.